ギア比について考察・計算

 トランスミッションの必要性

まず大前提として、エンジンにはトルクバンドとパワーバンドというものがある。
これは、内燃機関としてのエンジンには仕方のないこと。
これを如何にうまく使い、効率のよい出力を得るかが重要になる。
そのために必要なのがトランスミッションの仕事なんだよね。

 トランスミッションを構成するもの

1.クラッチ エンジンからトランスミッションへの入力を繋いだり切ったりする機構。
2.トランスミッション ギアを組み合わせて、ファイナルギアへの出力回転数を決定する機構。
3.ファイナルギア トランスミッションから出力軸への回転数を調整する機構。

 ギア比を決定する上で必要な要素

エンジン回転数

  • アイドル回転数
    • 各段での最低速度を決定する
    • これを下回る回転数では走行できない
  • 最大トルク発生回転数
    • シフトアップでのドロップ回転数はこれを目安とする
    • 最大トルクの多くを出力できる回転数帯をトルクバンドと表現をする
  • 最大馬力発生回転数
    • ギア比を決定する上で一番重要な要素
    • 最大馬力の多くを出力できる回転数帯をパワーバンドと表現をする
  • レヴリミット
    • 各段の最高速を決定する要素
    • これを超える回転数ではエンジンの耐久・馬力を保証できない
    • ここでは、レヴリミッタの作動する13000rpmを用いる

速度

  • 最低速度
    • アイドル回転数により、コースによってこれを下回る回転数とならない
  • 最高速度
    • レヴリミットにより、これを上回る回転数とならない

車体

  • 車重
    • 加速度を決定するために、適切なギア比を決定する
  • 前面投影面積とcd値
    • 最高速を決定するために、適切なギア比を決定する
  • タイヤ
    • 径・幅・扁平率によって、これも減速比を得る

 実際の例

GSR400の基礎データ

まずは、資料として以下のExcelファイルを開いてほしい。
ギア比検討書バイクβ.xls
グラフによって視覚的に判りやすいようにしてある。

  • カタログ上の基礎データ
型  式BC-GK7DA
全長 / 全幅 / 全高2090mm/795mm/1075mm
軸間距離/最低地上高1435mm/130mm
シート高 / 乾燥重量770mm/185[190]kg
定地燃費35.5km/L (60km/h)
最小回転半径2.9m
エンジン型式4サイクル・水冷・直列4気筒・K719
弁方式DOHC・4バルブ
総排気量398cm3
内径×行程 / 圧縮比54.6mm×42.5mm/12.2
最高出力39.0kW〔53.0PS〕/11000rpm
最大トルク37N・m〔3.8kg・m〕/9000rpm
燃料供給装置フューエルインジェクションシステム
始動方式 / 点火方式セルフ式 / フルトランジスタ式
潤滑方式 / 潤滑油容量ウェットサンプ式/3.9L
燃料タンク容量16L
クラッチ形式湿式多板コイルスプリング
変速機形式常時噛合式6段リターン
変速比 1速2.785
変速比 2速2.000
変速比 3速1.600
変速比 4速1.363
変速比 5速1.208
変速比 6速1.086
減速比(1次/2次)1.926/3.357
フレーム形式ダイヤモンド
キャスター/トレール25°15’/104mm
ブレーキ形式(前/後)油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク
タイヤサイズ(前/後)120/70ZR17M/C(58W)/180/55ZR17M/C(73W)
舵取り角左右33°
乗車定員2名
  • ここで使用する項目は以下のもの
項目名数値
最高出力39.0kW〔53.0PS〕/11000rpm
最大トルク37N・m〔3.8kg・m〕/9000rpm
アイドル回転数1500rpm
レヴリミット13000rpm
変速比 1速2.785
変速比 2速2.000
変速比 3速1.600
変速比 4速1.363
変速比 5速1.208
変速比 6速1.086
減速比(1次/2次)1.926/3.357
タイヤサイズ(前/後)120/70ZR17M/C(58W)/180/55ZR17M/C(73W)

まずは速度を計算してみる

  • 後軸(駆動軸)出力回転数

アイドル回転数時の1速後軸出力回転数を計算してみる
アイドル回転数は1500rpm(GSR400において実際は1000~1400rpmらしいが、便宜上きりのいいところで)なので、
1500÷2.785÷1.926÷3.357=83.3

となる。
つまり、一分間に後軸が83.3回転するということ。
標準サイズリアタイヤ外周が1.9776mなので、アイドル回転数において一分間に進む距離は
1.9776×83.3=164.73m

時速になおすと
164.73m×60秒=9840m

となり、時速9.84kmとなることが判る。
同じように1速レヴリミットでの速度を算出すると、時速85.66kmとなる。
つまり、1速がカバーする速度域は
9.84km/h~85.66km/h

ということになる。

同様に計算した、各速のレヴリミット時速度は以下のとおり。

時速
1速85.66315854 km/h
2速119.2859483 km/h
3速149.1074353 km/h
4速175.0344069 km/h
5速197.4932918 km/h
6速219.6794627 km/h

シフトアップすると何が起こるのか?

13000rpmでシフトアップしたときのドロップ時回転数を先にあげる。

回転数(rpm)
1→29336
2→310400
3→411074
4→511522
5→611687

これが何を意味するのか。
まず、1速でレヴリミットまで引っぱり、2速にシフトアップするのを想像してほしい。
タコメータを見ていると、2速にシフトアップした段階で、回転数が落ちているはずだ。
その「落ちた結果の回転数」がドロップ時回転数となる。
これが起こる理由は、
1速レヴリミット13000prm時の速度が85.66km/hで、同じ速度の2速では9336rpmになる

からなんだな。
同じように、2→3や3→4…とシフトアップしても回転数は落ちる。
つまり、レヴリミットでシフトアップした場合において、2速がカバーする回転数域は
9336~13000rpm

となる。

では、このシフトアップが速さを求める上で正しいのか?

最大トルク37N・m〔3.8kg・m〕/9000rpm

最高トルクは9000rpm発生であり、それ以上の回転数では数値的に落ちている。
その落ちたトルクで加速しようとするのは、賢いとは言えないんだよね。
トルクというのは、徐々に増してピークに達し、あとは文字通り下降線をたどる。
徐々に増している段階の「上り坂」は緩やかで、ピークを越えた「下降線」は比較的急激に下がる。
つまり、最大トルクの手前…個人的には経験上-2000rpmで7000rpm以上、ピークを越して+1000rpmの10000rpm以下をキープできるようにシフトアップすべきだと思う。
この7000~10000rpmがトルクバンドということになる。
5000~6000の間に、トルクの谷を感じるし。

10000rpmでシフトアップした場合のドロップ時回転数は

1→27181
2→38000
3→48519
4→58863
5→68990

となり、トルクのおいしいところをキープできている。

では、最高出力(馬力)はどうか。

最高出力39.0kW〔53.0PS〕/11000rpm

同じように計算してみよう。
先ほどの13000rpmでシフトアップしたときの、ドロップ時回転数を再び出してみる。

1→29336
2→310400
3→411074
4→511522
5→611687

先ほどと同じように、最高出力回転数である11000rpmより-2000rpmの9000rpm、ピークを越して+1000rpmの12000rpmをパワーバンドと仮定してみる。
このパワーバンドとは、最高速付近での「伸び」につながってくる。
正直、4速以降はピークを過ぎた名残を維持しているだけ。

GSR400の場合、11000rpmを超えると回転のダルさが出てくるので、個人的には
10000rpmでシフトアップした場合のドロップ時回転数は

1→27181
2→38000
3→48519
4→58863
5→68990

であるから、だいたい、4・5速はパワーバンドより若干下でつながっている計算になる。
では、11000rpmでシフトアップするとどうなるかというと…

1→27899
2→38800
3→49371
4→59749
5→69889

となる。
見て判るとおり、4速以降はパワーバンドをキープできている。
つまり、直線路で最高速を最短の時間で出そうとするならば、

1→210000rpmシフト
2→310000rpmシフト
3→410000rpmシフト
4→511000rpmシフト
5→611000rpmシフト

がベストなのではないかと思われる。
これは、

で述べた、排気チューンのみで最高速が最高出力回転数であったことを勘案した結果。
まぁ、人それぞれ色々と考えがあるんだろうと思うんで、あくまでも私の持論というだけのものと考えていただきたい。

ここまでで、ある程度はシフトアップという動作の重要性と、その原理が判ってもらえたら嬉しいと感じる。

結論
シフトアップとは、おいしい回転数域を逃さないための行為である。

シフトダウンすると何が起こるのか

さていきなりだが、走行中、おもむろに回転をあわせずにシフトダウンしてみよう。
比較的クロスしているギアならともかく、2→1のシフトダウンでは駆動輪がロックし、挙動を乱すことになる。
なぜか?
前項目の最初を読み返してほしいのだが、
1速レヴリミット13000prm時の速度が85.66km/hで、同じ速度の2速では9336rpmになる

という部分。
逆に考えて、
2速で9336rpm時の速度が85.66km/hで、同じ速度では1速レヴリミット13000prmになる

としてみよう。
つまり、
2速85.66km/hである9336rpmで走っていておもむろにシフトダウンした場合、 1速での85.66km/hは13000rpmなので、そのギャップ3664rpmを吸収できずに、 シフトロックなどの挙動に出る。

ということなんだな。

これを吸収するには主に2つの方法がある。
半クラッチで徐々に回転をあげるか、ブリッピングで回転をあわせるか。

半クラッチのメリットは、
1.教習所で習うため、初心者でもやりやすい
2.瞬間的な動作を必要としないため、非常時に使いやすい

だが、デメリットとして
クラッチが減る

というのがある。

ブリッピングのメリットとしては、
1.瞬間的に回転があうため、次の動作に移りやすい
2.上手にやれば駆動系に負担がかからない

これのデメリットとしては、やはり
習得までに時間が掛かる

ことかね。
これ、クルマで言う「ヒール アンド トゥ」ってやつ。

さて、シフトダウンには2つの使用する機会がある。
まずは当然のことながら減速時。
通常のブレーキと併用するかたちでエンジンブレーキを利用し、減速距離を短くする。
次に加速時。
これは、下がりすぎた回転数をトルクバンドまであげることにより、鋭い加速を得るためのもの。

エンジンブレーキを利用する場合。
これは説明するまでもないだろう。
言うまでもなく、ポンピングロスによって発生した「負荷」を利用して減速するということ。
スロットルを閉じられたエンジンは、ポンピングロスによって回転を落とそうとする。 すると、その力がトランスミッションを経由して駆動軸に伝達され、車体の減速が行われる。

簡単に言ってしまえばこんなもの。
では、その減速は「ギア比にかかわらず一定」なのか?
否、ギア比によって変化する。
これについては後述する。

加速のための場合。
たとえば、3速5000rpmで走行していたとする。
速度にして約57km/h。
ここから3速のまま加速をしようとすると、トルクバンドまでゆっくり回転があがり、トルクバンドに入ってから、やっと「まともな」加速が始まる。
町乗りで、特に速さを求めないならこれでいいだろうが、たとえば追い越しを掛けたいときなどは、これでは話にならない。
そこで、同じ57km/h時の各ギアでの回転数を算出してみよう。

回転数(rpm)
1速8650
2速6212
3速4970
4速4233
5速3752
6速3373

速度の小数点以下を切り捨てたため、若干数字が変化しているが、気にしないでほしい。
お判りいただけるだろうか?
2速の方がトルクバンドに近くなり、それは、加速が鋭くなることを意味する。
つまり、
トルクバンド以下で回転があがるのを待つ必要が無くなる

ということなんだわな。

では、6速のまま30km/hに減速してしまい、そこから鋭い加速をしたい場合、何速を選べばいいのだろうか?

回転数(rpm)
1速4553
2速3269
3速2616
4速2228
5速1975
6速1775

一目瞭然である。
6速では、ほとんどアイドル回転数に近い状態だが、1速まで落とせばせきこまずに加速できることが判る。

以上のことを念頭に置き、
減速時は回転数維持のため、加速に移るまでにあらかじめシフトダウンをしておく

のが重要なんだわな。

さて、切りのいいところで続きは次章。

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