ギア比について考察・計算Part2

 そもそもギア比とはなんなのか

前章「ギア比について考察・計算」では、シフトアップ・シフトダウンの意味について述べた。
しかし、大前提であるギア比というものの意味は解説していない。
そこで、この章では、その大前提について解説したいと思う。

 ギア

ギアとはご存知のとおり、歯車のこと。
トランスミッションでは、たとえばバイクや4輪において、また、一般市販車やコンペティツォーネにおいて、それぞれ様々な種類の歯車が使われている。
平歯と斜歯に違いにはじまり、ベベルやチェーンまで、本当に様々な種類のものがある。
ここでは、細かな種類についての説明は行わない。
興味があったら、自分で調べてほしい。

 減速比

まずは思考実験。

とあるボルトを回そうとしているのだが、固着してしまっているのか、普通の長さ10cmのレンチでは回らない。
そこで、50cmの鉄パイプを掛けてみると、こんどは楽に回った。
このときの違いは、ボルトに掛かるトルクが、10cmよりも50cmのほうが大きくなるからなんだよね。
そのかわり、10cmレンチと50cm鉄パイプそれぞれの外周側先端が移動する速度が同じ5cm/秒だった場合、
10cmレンチでは外周長31.4cmで、移動する5cmは外周の16%。 50cm鉄パイプでは外周長157cmで、移動する5cmは外周の3%。

つまり、同じ5cm/秒でも50cm鉄パイプの方が、ゆっくり1周することになる。
ゆっくり1周するかわりに、大きな力を得られるわけだな。
ボルトが緩んで小さな力でも回るようになったら、10cmレンチで速く回してやれば、それだけ短い時間でボルトは抜けてくる。
もっと回転半径の小さいもの、たとえばドライバなどで回せば、さらに速く回ってボルトが抜ける時間も短縮できるようになる。

歯車

同ピッチ10Tと20Tの組み合わせの歯車があるとする。
10T側を1周回すあいだに、20Tは半周しか回らない。
つまり、50%に減速されてるわけ。
これを表す減速比は20:10で2.000となる。

この組み合わせの場合、動かす10T歯車をドライブ、動かされる20T歯車をドリブンと呼ぶ。
ドライブが1周するあいだにドリブンが半周する…逆に言うと、ドリブンを1周させるのにはドライブを2周させなければならない。
これがもし10T:10Tの減速比1.000なら回転は等速、ドリブンで出力する力(トルク)も入力と同等になるんだが、今回の問題である減速比2.000の場合、ドリブンで出力する力(トルク)は2倍に、出力回転数は半分になる。
さっきの50cm鉄パイプと同様、回転半径が大きくなって1周はゆっくり回る分、トルクは大きく変換されているんだわな。

逆に20Tを1周回すと、10Tは2周回る。
これは、200%に増速されている。
これを表す減速比は10:20で0.500となる。

この場合、動かす20Tがドライブで、動かされる10Tがドリブンになる。
減速比0.500では、ドライブに掛かる力(トルク)がドリブンで出力された時点で半分になってしまい、出力回転数は倍になる。
意味が判るかな?

トランスミッション

上で説明した減速比を複数用意し、エンジンのトルクバンドやパワーバンドを効率よく利用できるようにした機構が、トランスミッションというもの。
GSR400の場合、トランスミッション内での減速比組み合わせは

減速比
変速比 1速2.785
変速比 2速2.000
変速比 3速1.600
変速比 4速1.363
変速比 5速1.208
変速比 6速1.086

となる。
さらに、ファイナルとして

減速比(1次/2次)1.926/3.357

という減速がトランスミッション内各段と駆動軸間に用意されている。
1速10000rpmで走る場合、
入力回転数10000rpm÷1速2.785÷1次1.926÷2次3.357=駆動軸回転数555.35rpm

となる。
また、6速10000rpmで走る場合、
入力回転数10000rpm÷6速1.086÷1次1.926÷2次3.357=駆動軸回転数1424.17rpm

となる。
この2つの例を見て判るとおり、変わるのは1~6速各段減速比のみで、ファイナルの1次・2次は変わっておらず固定。
よくスプロケを換えるというが、あれはファイナル2次の減速比を変更しているんだよね。
シフトチェンジというのは、最初の思考実験で出した、鉄パイプとかレンチやドライバという道具を持ち替えるのと一緒とも言えるかもしれない。

このシフトチェンジについては前回(ギア比について考察・計算)で解説したけれど、今回の減速比と併せてもう少し詳細に解説したいと思う。

ファイナル変更

手軽なチューンとして、スプロケを変更する「ファイナル変更」という手段がある。
たまに勘違いしているひとがいるんだが、これによって得られる結果は
クロスミッション化ではない

んだわな。
ファイナルを変更して得られるのは、各段それぞれが受け持つ速度域の変化による、後軸出力回転数と後軸出力トルクの変化のみ。
つまり、スプロケを変更してファイナル2次3.357→3.000にしたとして、各段が受け持つ速度域が変化して最高速はあがるけれども、シフトアップ時のドロップ回転数は変化しない。
各段の受け持つ速度域が変化するということは、この例だと
最高速はあがるが加速が鈍くなり、発進も難しくなる

っつぅこった。

ボンネビル仕様みたいな最高速重視のファイナル設定だと、まさにこの状態になって、クラスによっては、牽引によって発進からある程度の速度まで速度を上げる必要がある。

クロスミッション化というのは、ドロップ回転数が小さくなるということだから、意味が全然違う。
各段の減速比が変化していない以上、ドロップ回転数が変化することは有り得ない。

勘違いしている理由は、ファイナル2次3.357→3.500とか変化させた場合、後軸出力トルクは大きくなるから、加速が良くなるということでだと思う。

クロスミッション

クロスミッションとは、各段の減速比が近く、ドロップ回転数が小さなものをいう…なんてのは説明するまでもないわな。
クロスミッション化することによって得られるメリットは、
1.ドロップ回転数が小さくなることにより、シフトアップでトルクバンド・パワーバンドを外さずにすむ
2.各段が受け持つ回転数域が小さくなることで、シフトダウン時に回転あわせがしやすくなる

ということ。
デメリットとして、
各段が受け持つ回転数域が小さくなることで、発進加速か最高速のどちらかが犠牲になる

っつぅのがある。
つまり、4・5・6など上の段に1・2・3などの下の段を近づけていくと、1速が受け持つ範囲が大きくなり、発進加速が鈍くなる。
極端な例だと、牽引などにより発進を手助けしないとエンジンストールするなんつぅのも考えられる。
逆に、1・2・3などの下の段に4・5・6など上の段を近づけていくと、最高速が鈍る。
これを解消するには、多段化というのもある。
昔の小排気量GPマシンでは、8段とか12段なんつぅのがあったわけだし。
まぁ12段とは言っても、現代のようにコースによってギアレシオを変更するという考えがなくて、コースによって1速~8速を使ったり、別のコースでは3速~10速、更に別のコースでは5速~12速とかいう風に、選択の幅を持たせてただけで、一つのコースで1速~12速全部使ってたわけではないっつぅのが実情らしいが。

過去の面白い例として、フォーミュラニッポンなどで言われた4速仕様・5速仕様っつぅのがある。
これ、ミッションの段数は同じ5速なんだが、4速仕様というのは減速比の大きい1速を発進専用として設定し、走行中は2~5速の4段で走るということで、5速仕様というのは発進加速を犠牲にしてでも走行中は1~5速の5段をフルに使って走行するというもの。
鈴鹿のヘアピンなんかだと、4速仕様は2速で通過するが、5速仕様では1速まで落とすことになる。
これなんかは、クロスミッションのデメリットを解消するために、多段化以外にどういう解決策があるかということの一つの回答だと思うけどね。
同じチームでもドライバによって、また同じドライバでもコースによって使い分けていた。
今でもやってるのかは知らん。

タイヤ

タイヤも減速比を持っている。
駆動するタイヤの外径が小さくなると、外周長も小さくなり最高速は落ちるが加速が良くなる。
逆に外径が大きくなると、外周長も大きくなり最高速はあがるが加速が悪くなる。
外周長が変化すれば、一回転あたりの仕事量も変化するっつぅこった。

GSR400の標準タイヤサイズである180/55-17では
外周長197.76cm

だが、180/50-17(こんなサイズ設定は無いと思うケド)へと扁平率を変更しただけで
外周長192.11cm

になる。
つまり、1回転で進む距離を変化させることによって、減速比も変わってくるっつぅこと。
グリップだけじゃなく、こういうところでもタイヤはセッティングパーツなんだわな。
ちなみに、13000rpm時・6速減速比1.086・ファイナル1次減速比1.926・ファイナル2次減速比3.357という数字の理論上(空気抵抗・転がり抵抗がなく、出力が充分に確保されているという仮定)の最高速で、
180/55-17では219.679km/h

だが、
180/50-17では213.401km/h

と、扁平率が変化しただけで6km/h以上変わってくることになる。

ちなみに、実存するサイズでは
190/55-17では223.516km/h

っつぅ例もある。
タイヤサイズも、ちゃんと考えておかないとマズいわな。

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